Gemini Enterprise Agent Platformの4つの機能(Build、Scale、Govern、Optimize)が色分けされて配置されたアイキャッチ画像。土台にはVertex AIが統合され、中央にはエージェントプラットフォームが輝いています。左下には開発者のオリジナルキャラクターがラップトップを持ち、多様なモデルアイコンが配置されています。

はじめに

2026年4月、Google Cloud Next 2026 で Gemini Enterprise Agent Platform が発表されました。

ニュースのヘッドラインは「Gemini 3.1 Pro と Gemma 4 を含む200以上のモデルに統一アクセスできる」という派手な数字でしたが、このリリースの本質はそこではありません。

注目すべきは、これまで「Vertex AI」と呼ばれていたGoogle Cloudの AI 基盤が、Agent Platform という新しいブランドに完全に吸収されたという点です。Google Cloud 自身が「今後、Vertex AI のサービスとロードマップ進化は、すべて Agent Platform 経由で提供される」と明言しています。

複数社の開発現場を支援してきた経験から言うと、今回の変更はクラウド上でエージェントを作るすべての人にとって、設計判断のやり直しを迫るレベルの大きな動きです。

この記事では、公式発表を事実ベースで整理したうえで、現場目線でどう受け止めるべきかを整理します。

こんな人におすすめ

  • Google Cloud 上で AI エージェントを構築・検討している開発チーム
  • Vertex AI を利用中で、今後の影響が気になる方
  • Claude や OpenAI と並行して Gemini も採用候補に入れている技術リード
  • エンタープライズ向けに AI エージェントのガバナンスを整えたい方
  • 200+ モデルという選択肢を、実際の案件でどう活かすかを考えたい方

発表の事実整理

1. Vertex AI は「Agent Platform」に統合された

Google Cloud の Michael Gerstenhaber 氏は公式ブログで次のように述べています。

これまで Vertex AI に含まれていたすべてのサービスは、Gemini Enterprise Agent Platform の中で提供されます。

つまり Vertex AI は消えたのではなく、Agent Platform という傘の下に収められた、と理解するのが正確です。

「モデル選択・モデル構築・エージェント構築」という従来 Vertex AI が担っていた領域に加えて、エージェントの統合・オーケストレーション・DevOps・セキュリティという新しい層が上に乗った構造です。

構造をイメージで整理すると次のようになります。

graph TD
    AP[Gemini Enterprise<br/>Agent Platform]
    AP --> Upper[エージェント層<br/>新しく乗った機能群]
    AP --> Lower[従来のVertex AI領域]

    Upper --> U1[オーケストレーション]
    Upper --> U2[DevOps・Observability]
    Upper --> U3[セキュリティ・ガバナンス]

    Lower --> L1[モデル選択<br/>Model Garden]
    Lower --> L2[モデル構築<br/>学習・FT]
    Lower --> L3[エージェント構築<br/>Agent Studio / ADK]

    style AP fill:#4285F4,color:#fff
    style Upper fill:#E8F0FE
    style Lower fill:#FEF7E0

2. 4つの柱:Build / Scale / Govern / Optimize

Agent Platform は大きく4つの機能群で構成されています。4つの柱と、配下にある代表機能を一覧で整理します。

Build(構築)

  • Agent Studio: ローコード・ビジュアルの開発環境
  • Agent Development Kit (ADK): コードファーストな開発キット。月間6兆トークンの処理実績
  • Agent Workspace: セキュアなサンドボックス環境
  • Agent Garden: コード近代化、財務分析、請求書処理など事前構築テンプレート

Scale(スケール)

  • Agent Runtime: サブ秒単位のコールドスタート
  • Agent Memory Bank: 長期記憶を動的に生成・キュレーション
  • Agent Sessions: 自前の DB / CRM にセッション ID をマッピング可能
  • 双方向ストリーミング(WebSocket)で長時間稼働のワークフローに対応

Govern(統治)

  • Agent Identity: 各エージェントに暗号化 ID を付与し、監査証跡を生成
  • Agent Registry: 組織横断で承認済みツール・スキルを一元管理
  • Agent Gateway: 複数環境間のセキュアな統一接続。Model Armor によるプロンプトインジェクション対策
  • Agent Threat Detection: 不審な通信や悪意あるコード実行をリアルタイム検出

Optimize(最適化)

  • Agent Simulation: 合成ユーザーと仮想ツールによるテスト
  • Agent Evaluation: 本番トラフィックに対する継続的スコアリング
  • Agent Observability: 推論プロセスの可視化トレース
  • Agent Optimizer: 実運用の失敗事例を自動クラスタリングし改善提案

3. 200以上のモデルへの統一アクセス

Agent Platform の特徴として大きく打ち出されているのが、モデル選択の幅広さです。

Google 純正

  • Gemini 3.1 Pro(推論特化・複雑なコーディングやデータ分析向け)
  • Gemini 3.1 Flash Image(画像処理特化)
  • Gemma 4(Apache 2.0 の完全オープンウェイト、256K コンテキスト、Dense / MoE 両対応、エッジでも動作)
  • Lyria 3(音声・オーディオ)

サードパーティ

  • Anthropic Claude Opus / Sonnet / Haiku
  • Model Garden 経由で業界主導モデル200以上

他社のフラグシップモデルを公式ルートで使えるようにしている点は重要です。Google が「ロックインではなく、マルチモデル前提のプラットフォーム」という立ち位置を選んだことを示しています。

4. 料金モデルの概要

課金体系は従量制で、主に以下が対象になります。

  • Agent Runtime: vCPU 時間 + GiB メモリ時間
  • Model Optimizer: リクエスト単位でモデルを動的選択。2026年4月16日までは無償
  • Code Execution / Sessions / Memory Bank: 2026年2月11日から課金開始済み
  • 新規ユーザーには $300 の無料クレジット

細かい単価は案件の設計次第で変わるため、公式の Agent Platform Pricing を必ず確認してください。

実装現場での受け止め

「マルチモデルアクセス」は当たり前になりつつある

Anthropic Claude、OpenAI、Google Gemini のそれぞれを案件に応じて使い分けるのが、今の実装現場の基本姿勢です。

たとえば建設業向け SaaS の現場で Claude Code を中心に使っているケースでも、「画像認識だけは別モデル」「音声文字起こしだけは別のモデル」といった組み合わせは珍しくありません。

Agent Platform が Claude シリーズまで公式に抱えたことで、「Google Cloud 上で全モデル横断ルーティングができる」という構図が一段はっきりしました。同じ要件で Anthropic のマネージドエージェントと比較する機会が確実に増えそうです。

ガバナンス機能の厚みが一番の差別化に見える

発表を追う中で個人的に最も印象的だったのが、Govern 系の機能群です。

  • Agent Identity による暗号化 ID
  • Agent Registry による組織横断の承認済みツール管理
  • Agent Threat Detection による悪性通信のリアルタイム検知

これらは「エージェントを本番環境で放っておける」ための仕組みです。

複数の中堅企業を支援してきた経験から言うと、AIエージェントを本番導入するときの最大の壁は性能ではなく、「監査ログ・権限・セキュリティ境界の整理」です。ここで詰まって PoC 止まりになるケースが非常に多いのが実情でした。

Agent Platform はこの部分を最初からプラットフォーム機能として持ち込んできたので、「エンタープライズ案件で通しやすい」AI 基盤という意味では一歩リードしたと感じます。

Vertex AI からの移行は「新設計」で考えるべき

既に Vertex AI を使っているチームは、単なるリブランドとして受け流さない方が安全です。

Memory Bank や Agent Runtime のように、「従来の Vertex AI SDK では提供されていなかった新しい概念」がコア機能に昇格しています。これまでの構成をそのまま移植すると、Agent Platform の利点を活かせないまま料金だけ上がる、という状況も起こり得ます。

特に「エージェントのメモリをどう永続化するか」は、Memory Bank を前提に組み直すだけで実装量が半分以下になるケースがありそうです。

導入を検討するときの3ステップ

実案件で Agent Platform を検討するときに、最初にやるべきことを3つに絞って整理します。全体の流れを図にするとこのようになります。

flowchart TD
    A[検討開始] --> B[ステップ1<br/>既存Vertex AI資産の棚卸し]
    B --> C{自前で管理している<br/>セッション・メモリ?}
    C -->|あり| D[Agent Platform側に<br/>寄せられるか判定]
    C -->|なし| E[ステップ2<br/>ガバナンス要件を先に固める]
    D --> E
    E --> F[Agent Identity/Registryの<br/>承認フロー合意]
    F --> G[ステップ3<br/>Model Optimizerでルーティング検証]
    G --> H[コスト・品質のバランス確認]
    H --> I[本番モデル構成を決定]

    style A fill:#f9f9f9
    style I fill:#90EE90
    style C fill:#ffeb3b

ステップ1: 既存 Vertex AI 資産の棚卸し

  • 現在使っている Vertex AI の機能を一覧化する
  • Model Garden 経由で呼んでいたモデルがどれかを確認する
  • 自前で書いているセッション管理・メモリ機構を Agent Platform 側に寄せられるか判定する

ここが曖昧なまま移行すると、Agent Runtime と自前インフラの二重持ちになります。

ステップ2: ガバナンス要件を先に固める

  • Agent Identity を必須とするか判断する
  • 監査ログをどの粒度で残すかを決める
  • Agent Registry に登録するツールの承認フローを社内で合意する

ガバナンスは後付けすると設計全体に影響するため、構築前に決めておく方が結果的に早いです。

ステップ3: モデル選択は「Model Optimizer」を試してから固定する

Model Optimizer は「cost / quality / balance」の方針を渡すだけで、タスクごとに最適なモデルを自動で選んでくれる機能です。

いきなり Gemini 3.1 Pro 固定にする前に、Model Optimizer でルーティングさせて、実際のコストと品質のバランスを見る方が合理的です。特に2026年4月16日までは無償なので、このタイミングで試す価値は大きいです。

良かった点と気になった点

実装目線で見た場合の、現時点での評価です。

良かった点

  • Claude を含むサードパーティモデルを公式ルートで使える安心感
  • Memory Bank がプラットフォーム標準として整備されたこと
  • ガバナンス機能(Identity / Registry / Threat Detection)の厚み
  • Gemma 4 がオープンウェイトで、オンプレ運用の選択肢もある

気になった点

  • 用語が一気に増えた(Runtime / Sessions / Memory Bank / Registry / Gateway …)
  • 料金体系が細かく、初期設計で見積もりがブレやすい
  • Vertex AI の SDK との互換性・移行パスは要確認
  • 日本語ドキュメントが追いついてくるまで時差がありそう

まとめ

Gemini Enterprise Agent Platform は、単なるモデルの発表ではなく、Google Cloud の AI 基盤そのものがエージェント中心に再設計されたことを示すアナウンスでした。

ポイントをもう一度整理します。

  • Vertex AI は Agent Platform に統合。今後の新機能はすべてこの傘下で提供される
  • 4つの柱は Build / Scale / Govern / Optimize。特に Govern の厚みが差別化要因
  • 200+ モデル(Gemini 3.1 Pro、Gemma 4、Claude 等)に統一アクセス可能
  • Memory Bank と Agent Runtime は新しいコア概念。移行時は再設計が前提

AI エージェントを本番導入したい企業にとっては、選択肢が一気に整理された半面、プラットフォーム選びのやり直しを迫られるタイミングでもあります。


参考リンク